July 08, 2005

ドイツの原子力物語とチェコの原子力

ドイツの原子力物語お薦めの一冊「ドイツの原子力物語(外林秀人&外山茂樹訳編著)」。1938年12月,ドイツ・ベルリン,ダーレム地区にあるカイザー・ウルムヘル化学研究所でウランの核分裂連鎖反応が発見された。それは,オット・ハーンと理論物理学者リーゼ・マイトナー女史,そして分析化学者フリッツ・シュトラスマンの三人の共同研究で成し得たものだった(皮肉にも,マイトナー女史は,ナチスのためスウェーデン・ストックホルムに亡命していており,表向きはこの栄誉に与れなかった。後年,オット・ハーンのみがノーベル賞を受賞している)。
核分裂実験成功後,ナチス旋風の猛威でユダヤ人科学者が追放され(その殆どがアメリカへ渡った),原子力の舞台はアメリカへ移る。アメリカに亡命したボーアとナチス陣営のハイゼンベルクの原子爆弾製造競争,理化学研究所の仁科芳雄の「仁」プロジェクト,アインシュタインのルーズベルト大統領への伝説の書簡,マンハッタン計画,オッペンハイマー,コンプトン,ローレンス,フェルミらの科学顧問団,原爆製造都市ロスアラモスの出現,ポツダム会談中の原爆投下決断,様々なドラマを経た6年7ヶ月後,1945年8月6日に広島,9日に長崎にそれぞれウラン型原子爆弾とプルトニウム型原子爆弾が投下され広島で約14±1万人(1945年12月末当時,当時広島市の人口は約35万人),長崎で7万4千人の方が死亡した(筆者の外林氏自身も広島の爆心地から1.7km地点で被爆し家族を失っている)。

この物語は,ドイツ・マックス・プランク研究所教授,ベルリン工科大学・高分子物理化学教授である外林秀人氏が執筆した原子力物語である。小生は,昨年夏にベルリンで開催されたドイツ研究者ネットワーク会合で外林氏の講演を拝聴し,懇親会で知り合う機会があった。昨秋改訂された「ドイツ原子力物語」が出版されたとのことで,外林さんから直接連絡を頂き最近送って頂いたものである。

数ある原爆関連書の中でも,本書は特にベルリン・ダーレムを舞台の中心に描写されたもので,当時の錚々たる物理学者達の人間関係や,ドイツと日本の科学者交流などが紹介されていて面白い。むしろ錚々たる面子(物理学者)を記述するスペースが本書では足りないと思うほどエキサイティングな現場の様子が分かる。ドイツで研究する日本人は必読でしょう。

【入手方法など】詳しくは以下のページに紹介がある(定価2千円,送料は出版社負担,海外へも送料無料)
総合工学出版会 出版事務センター(担当;宇田川様)
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原子爆弾と原子力発電ウランには中性子数が異なるウラン235とウラン238とウラン234がある(天王星(ウラヌス)に由来する名)。天然に存在するウランの99.275%は核分裂しにくいウラン238で,0.72%が核分裂しやすいウラン235,0.0006%がウラン234である。ウラン235に中性子が当たると原子核が2つに分裂し,その際に2〜3個の中性子と熱エネルギーが放出される。核分裂の時に飛び出した中性子は次々に別のウラン235に当たり核分裂を起こしていき(連鎖反応),膨大な熱エネルギーを生み出す。原子力発電も原子爆弾も,ウランの核分裂によって生じるエネルギーを利用するが,原子爆弾の場合は一挙に大量のエネルギーを発生させることが目的であり,核分裂しやすいウラン235を100%近く濃縮した高濃縮ウランを使用する。一方,原子力発電の場合は,エネルギーを長期間に渡って取り出すことが目的であるので,燃料はウラン235を3〜5%に濃縮した低濃縮ウランが使われる。ウランの臨界量(連鎖反応を発生させる最低量)は20%の濃縮ウランで約20kg。一方,太陽系最遠の衛星,冥王星(プルートー)にちなんで付けられたプルトニウムは,ウランに比べて放射能が高く,現在の核兵器に利用されている(臨界質量は12.5kg)。現在問題になっているプルサーマル原子力発電の発電量の30〜40%はプルトニウムの核分裂のエネルギーである。

Deep Impactミッションの彗星衝突エネルギがTNT火薬約5トン分だった(TNT火薬1kg;4.2×10+6J)。Deep Impactと同じペネトレーターを逆軌道彗星(対地球速度70km/s)にぶつければ,TNT216トン分のエネルギーに,1トンのペネトレーターをぶつければ,TNT580トン分のエネルギーになる。一方,広島-長崎原爆だけでTNT20kトン(水爆だったら更に3オーダーでかい)だから,やっぱり核分裂の威力は巨大だ。超高速衝突の運動エネルギよりも更に2桁は大きい。科学的興味と地球を守る目的で,彗星-小惑星を核の廃棄場所にするってのも面白いかも。地球上の原水爆を直径数kmの小天体にぶつければ充分に破壊可能だろう。

【チェコと原子力の関連話題】

原爆ドームチェコの建築家ヤン・レツルによって設計された1915年(大正4年)8月に作られた広島の「広島県物産陳列館」。この上空で原爆が炸裂して残った原爆ドームは,1996年に核兵器廃絶と人類の平和を求める誓いのシンボルとしてユネスコの世界遺産に登録された。プラハの町中にも,設計年代は違うが広島原爆ドームによく似たレツルのドームがある。





チェコDukovany原発チェコTemelin原発現在,チェコには2つの原発がある。ドゥコヴァニー(Dukovany;写真左)とテメリーン(Temelin;写真右)だ。特に後者のテメリーン原発は2000年10月から稼動しており,事故が続発していてその危険性が訴えられている。テメリーンでは,旧ソ連型(VVER-1000)の加圧水型原子炉を採用しており,専門家の間では安全性が懸念されているいわくつきの原子炉なのである。半径100km圏内にはプラハはもとより,隣国のリンツ,パッサウなどの都市があり,オーストリアでは,テメリーン原発に対して猛烈な反対運動が展開されている。そもそもチェコは,テメリーン原発無しでも電力は足りているようで(チェコ人は夜も電気使わないし,空調もないのが当たり前なので),この原発は,電力輸出用となっている。ドイツは原子力発電の完全放棄を宣言しておりチェコを非難しているが,ドイツのエオン電力会社がテメリーン原発電力の輸出先になっているのもおかしな話である。いずれにしても,チェルノブイリの二の舞にならないことを祈る。


andromedayaki at 22:15│Comments(0)TrackBack(0)お薦めの一冊 

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